春
やわらかな光が射す
おだやかな日に想う
海の底に置いてきた
私の物語を
心に映ったこの世のすべてを
硝子(ガラス)玉に閉じ込めて
気づかぬまま私は
体の中に隠し持っていた
いつか硝子玉は
ささえきれない重さとなって
海に底へ私を
沈めていった
最初はゆるやかに
そして だんだんと加速をつけながら
頭上で優越する 生の歓びには
手が届かず
足元にある 死の安らぎには
迎え入れては もらえない
海の中で宙吊りにされた
気が遠くなるほどの
拷問の日々
しんとした水の中
虚ろに響くのは私の声
朦朧とした意識の中で
うわごとのように唇が動く
これほどまで罰せられるのなら
きっと罪を犯したのだろう
そしてある日
何者かの意志の力がはたらき
口元からゆっくりと
硝子玉はあふれ出した
舞うように沈んでゆく
硝子玉をふりほどいて
手を差しのべ
水面(みずも)を仰ぎ
かすんだ目で見たものは
もうすでに諦めていた
まばゆいばかりの光だった
私の心を知っているのは
現世(うつしよ)の人でなく
今も硝子玉のまわりを
ひらひら泳ぐ
あの場所の魚たち
永遠に忘れはしない
あれほどに生きたことを
春の夜に思い出す
あなたの肩にもたれながら
蒼く澄んだ水の底の
あの深い静けさを
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