まえがき

病気で自宅療養していた頃に書きためておいた詩です。

あの頃の私にとって、ノートに言葉を刻みつけることだけが、

生きている証でした。

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やわらかな光が射す

おだやかな日に想う

海の底に置いてきた

私の物語を


心に映ったこの世のすべてを

硝子(ガラス)玉に閉じ込めて

気づかぬまま私は

体の中に隠し持っていた


いつか硝子玉は

ささえきれない重さとなって

海に底へ私を

沈めていった

最初はゆるやかに

そして だんだんと加速をつけながら


頭上で優越する 生の歓びには

手が届かず

足元にある 死の安らぎには

迎え入れては もらえない

海の中で宙吊りにされた

気が遠くなるほどの

拷問の日々


しんとした水の中

虚ろに響くのは私の声

朦朧とした意識の中で

うわごとのように唇が動く

これほどまで罰せられるのなら

きっと罪を犯したのだろう


そしてある日

何者かの意志の力がはたらき

口元からゆっくりと

硝子玉はあふれ出した

舞うように沈んでゆく

硝子玉をふりほどいて

手を差しのべ

水面(みずも)を仰ぎ

かすんだ目で見たものは

もうすでに諦めていた

まばゆいばかりの光だった


私の心を知っているのは

現世(うつしよ)の人でなく

今も硝子玉のまわりを

ひらひら泳ぐ

あの場所の魚たち


永遠に忘れはしない

あれほどに生きたことを


春の夜に思い出す

あなたの肩にもたれながら

蒼く澄んだ水の底の

あの深い静けさを


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再生

しばらく前にこんな夢をみた。


    私は風俗嬢の仕事をさせられている。

    広場の真ん中には、

    近所のスナックのマスターが立っている。

    彼は私の憧れの人で、

    その瞳になら、見通されてもいいと思う。

    ついつい彼に見とれていると

    店の人になじられて、髪の毛を摑まれ、

    お仕置きとして手首を切り落とされる。


私が好きだったこと。

朝もやの中を散歩して、近くの池の生き物たちに会うこと。

ヤクルトの空き容器と針金でできたシャンデリア。

粘土で作った蟻んこの家。

4Bの鉛筆でぐいぐいと、クロッキー帳に線を引くこと。

雲の切れ間の一すじの光を、カンバスにとどめること。


十四歳の頃までは、

この両手は

物を生み出す歓びにあふれていた。


絶望に蝕まれたとき、

人は心に気付けない。

奴隷にされる、惨めさに。

奴隷を欲する、虚しさに。

ただ一人で もがくだけ。

誰からも 隔てられたまま。


言葉が傷口を解かし、

深い痛みがよみがえる。

震えながら、問いかける。

この手は再び甦るだろうかと。


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『HEART』

片隅のスピーカーから流れ出す

「ラルク・アン・シエル」の曲

私を揺らして

こころ震わせるもの


歌声は天を仰ぎ

砕け散るガラス細工

神学を独学するひとの

血のかよった讃美歌

他人の醜さに 自分の醜さに

耐えられない感性のうめき

無垢への憧れが捨てきれない

十代の気高さ


サウンドは混沌(カオス)に似た

熱い鉄を持つ溶鉱炉

媚薬入りの猫の舌

生の灼熱 死のざらつき

終わらない日常の足枷(かせ)から

解き放つもの


音楽にさらわれて

美しい夢をみる

壊死しかけてたHEARTが

鼓動を打って 生きようとする


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ロジック

幼い頭の中で

つくり上げてたロジック。

それは、死に至るロジック。


「オマエノ セイダ」ト

イワレタ キガシテ、

「ジブンノ セイダ」ト

オモッテタ ミタイ。


根拠となるのは、周囲のメッセージ。

でも、彼らの論理も破綻していた。


ロジックを組みかえよう。

ロジックを創りだそう。

とびきりのものにしよう。


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本質

私の本質は

傷ついた小鳥ではない、

手負いの竜だ。

どんなに みすぼらしい姿になっても

意志を手離せない。


皮を剥がれ、肉をむしられ、

眼球(めだま)と神経繊維だけとなり、

それでも死ねない

手負いの竜だ。


ほんの小さく触れられただけで

痛みにすさみ

吼えつく竜だ。


どうか私の激しさが

あなたを傷つけませんように。

どうか私の悲しみが

あなたの涙を枯らしませんように


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dear friend

私、自分に友達ができるなんて

思ってもみなかった。

私が今まで知っている人間関係は、

いつも使い捨てのものだったから。

利用価値がなくなれば、ポイって感じで。

だから、どうしても心が開けないのです。

心を閉じてさえいれば、

捨てられても傷つかずにすむでしょ、

貝みたいに。


凍りついた私には、あなたを暖めることすら

できないけれど、

でも、今、心から言えることは、

お願いだから、生きていて欲しいということです。

たとえ、この先、道が別れ、

二度と会わなくなったとしても、

どこかで必ず、生きていて欲しいということです。

あなたは私を利用しなかったから、

いえ、もう、理由なんか解らないけど


どうしても、生きていて欲しいということです。

どんなにつらくても、

生きていて欲しいということです。


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運命

戦うために

生まれてきてしまった


モラルはただの流行(ハヤ)りもの

のっかるヤツは どこかずるい


戦うために

生まれてきてしまった


相手は自分の心の闇

あばき出すたび みじめになるけど


戦うために

生まれてきてしまった


洞察力だけを

武器として


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あなたのこと

あなたのしゃべりかた

とても好きです

内向的なことは

ちっとも悪いことじゃないです


本物の自分の

世界を築くためには

閉じこもる時間は

どうしても必要です


問題なのは

一人の世界に

閉じこもることではなく

お構いなしに

一人の世界を

押しつけてくることです


手を掴んで引きずり回すような

しゃべり方をする人が

多いなかで


丁寧に言葉を選んで

相手を確かめながら

ゆっくりと握手するような

あなたのその しゃべり方が

とても好きです


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火の鳥

都会(まち)に行こうと決めたとき

向かい会うように翔ぶ一対の

鳳凰を目に焼きつけた

そのときは まだ言葉を持たず

ただ神聖な気持ちで見上げていた


故郷(ふるさと)には記憶さえもない

幼い日に肉体から 魂は解離し

もうすでに苦界を翔ぶ

火の鳥となっていた


職人だった父が

欄間に刻みつけた鳳凰

私が死ねなかったのは

その鳥が不死鳥だったから


幾千回 炎に身を焼き尽くして

幾千回 その中に甦る火の鳥

人間(ひと)としては生きられない

畸形の苦しみ


もうすでに 会うことも

できないあなた

桐の木に封じられた その心に

めぐり逢うとき

あなたの心にも

めぐり遭えるだろうか



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ライフ・ワーク

人を許す人間には なりたくない

そんな鼻持ちならない人間には

なりたくない


許す行為の前には

裁く行為をしてしまうはず

いったい何の権利があって

人が人を裁くのか


常識という名の無理解

逃げ込むための安っぽい哲学

品定めするような卑しい視線

踏みにじりあうだけのコミュニケーション


どこかでみんな うんざりしている

どこかでみんな 傷ついている


ちっぽけな物差しで

わけ知り顔で測りたくない

ちっぽけな物差ししか持てない

自分に絶望し続けたい



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わたし

わたしは四百年近く生きている

醜いものを たくさん見過ぎた


わたしは昨日生まれたばかりだ

世界の美しさを これから知る


わたしは生きたまま埋められていた

その暗い穴を見て 泣く


わたしは予感にあふれている

空と風と星と海と森と人に 会いにいく


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幸福

ふとした人の 優しさが

心を静かに満たしてゆく

音楽が文学が映像が 私を魅了する


痛めつけられてきた

者たちだけに

与えられた幸福


生きることは険しく

くじけそうになるけど


私達は もうこれでいい

弱り果てては いるけれど

歪んでは いないから


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あなたへ

一人ぼっちだと

思うことがあれば

どうか私を

思い出してください


一人ぼっちの私が

あなたのそばに いるから


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『火車』

宮部みゆきさんの作品は歴史小説が多いようですが、この作品は違うので、歴史小説が苦手な私でも楽しめました。

松本清張を彷彿とさせる深い人物洞察。罪を重ねずには生きられない人間というものを、哀しみながらいとおしむ、眼差しが優しいのです。

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